ありあけの海月

穏やかな波に揺蕩う海月のように、有明の空に浮かんだ月のように

実感はまだ

朝、伊丹空港に向かう。
実感はまだない。

10:30離陸と同時に爆睡。
起きると、窓が半分閉じられてた、
CAの優しさを感じながらも、実感はまだない。

11:50長崎空港に着陸。
初めてなのに、どこか懐かしい外観と気候。
空港のテレビで甲子園が放送されていると、
夏のように錯覚して、実感はまだない。

バスで長崎市街地へ。
Google Mapと逆方向に進んで少し不安。
現在地から目が離せない。
スマホは熱を持ち、爆速でバッテリーが消費される。
初めてフィンランドに行った時、
ヘルシンキからヴァルパイスヤルヴィへの車中と同じ状況。
実感はまだない。

長崎駅に着く。
乗り換えの電車を確認すると、1時間に一本しかない。
1時間後のその電車に乗り遅れないように注意しながら、
ロッテリアで昼食を取る。
ポテトが塩辛すぎて、実感はまだない。

電車に乗る。二駅。
満開の桜の下、電車を降りる。
重いリュックを背負って、
電池の表示が赤くなったスマホを片手に、歩く。
見上げるほどの坂をいくつか越え、
路地とも呼べないほど狭い道をいくつか越え、
電池残量3%でなんとか寮に辿り着いても、実感はまだない。

入寮説明会。
割と父兄も来ている。
おばあさんもいた。
本格的な引越しをしている人達を横目に、
前日に送ったスーツケースを待つ間も、実感はまだない。

スーツケースが届き部屋に入ると、
四人部屋のはずなのに、先客は一人しかいない。
とりあえず、部屋を作ったあと、自己紹介。
性格の良さげな青年であるが、やはり18歳なのであどけない。
一緒にコンビニへ夕食を買いに行く。
今日が誕生日らしいので、小さなケーキも買った。
部屋で二人、実感はまだない。

外に、同じく男2人組がいた。
声をかけると、彼らも四人部屋に二人しかいないらしい。
性格の良い二人であった。
彼らの部屋で四人、実感はまだない。

さらに同じ状況の2人組に出会う。
集会があるらしく、集会場へ。
寮全体の半分程が集まり、出身地と名前だけの自己紹介タイム。
珍しい地名があると騒めく。
それが終わると、あっさり解散し、先ほどのメンバーで集まる。
彼らの部屋で六人、実感はまだない。

なかなか良いメンバーである。
私以外は全員出身が九州だが、場所は全員バラバラ。
6歳の年の差を感じさせず、2時間以上語らう。
明日何人かと一緒に大学の下見に行くことを約束して、
部屋に戻り、パジャマに着替える。
日記を書いて、今に至る。
今日からここに住むのだ。
そうなるのだろうと頭では理解しながらも、
どこか疑っている自分もいる。
心が追いついていないのだろうか、
どれだけ鈍いのか。

まぁ、友達もできた。
新しい人生は順調に進み出している。
実感などなくとも、なんとかやっていけそうだ。