ありあけの海月

穏やかな波に揺蕩う海月のように、有明の空に浮かんだ月のように

煩わず。

住所変更をしていない。
一定の住所に1年間住まないのなら必要ないらしい。
しかし、免許証が身分証明にならない。
少し煩わしい。
住所変更の手続きをするのも、煩わしい。

んーんー唸りながら、免許更新のため警察署へ行った。
大阪府の証紙が必要になるのは経由更新というものらしく、
それは警察署では出来ないとのことだった。
しかし、住所変更をすれば今ここで更新できるとのこと。
住所変更もここでできると。
なんじゃそりゃ。
とても明るく個性的な淑女3人組が優しく対応してくれた。

一応顔写真をとって行ったのだが、全く気に入っておらず、
ダメ元で撮ってもらえないか尋ねると、
快く素敵な写真を撮ってくれた。
お金は取られた。
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部屋のベッドがカビている。
カビ臭がすごい。
最近、咳がとまらないのもこれのせいだと思う。
管理会社に電話しないといけないと思いながらも、
少し煩わしい。

意を決して電話をしてみた。
確認して折り返しますと言われ、8時間が経つ。
明日になるだろうか。
少し、煩わしい。
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Appleで買ったイヤホンが壊れている。
修理の電話をしないといけないと思いながらも、
管理会社からカビの件で折り返し電話がかかって来るかもしれない。
少し煩わしい。

意を決して、Apple Careに電話した。
メーカーに直接電話するように言われた。
管理会社からいつ電話がかかって来るか分からない。
電話するタイミングが掴めないまま昼になった。
少し煩わしい。
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小説を読むための場所を探す。
マクドナルドのポテト全サイズ150円を思い出す。
マクドナルドへ行く。
クーポンを開こうとすると、アプリのアップデートが必要とのこと。
Wi-Fiがないため、一向にアップデートが始まらない。
少し煩わしい。

バニラシェイクを注文して、小説を開く。

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帰り道、自転車から小銭を落とした気がした。
少し探したが見つからず、
500円玉ではなかったことを祈りながら、
諦めて行こうとした時、
小学生の男の子が100円玉をぶっきらぼうに渡してくれた。
ありがとうと言うと、彼は走って去って行った。

ああぁ、純度100の優しさ。
一切自分のためにならない行為。
礼を受け止めることもせず、
ただ走っていく勇敢な彼から受け取った100円玉は、
重くずっしりと心にのしかかる。

煩わず。
折り返しの電話はのんびりと待とう。
明日、イヤホンのメーカーに電話しよう。
マクドナルドのアプリは家でアップデートしておこう。
それで全て解決。簡単なこと。