ありあけの海月

穏やかな波に揺蕩う海月のように、有明の空に浮かんだ月のように

所謂、合宿的な何か

朝7時前に起床。
風は冷たく、鳥のさえずりも聞こえる心地の良い目覚め。
散歩をしようと、部屋を出ると、向かいの部屋に新入りが。
荷物を運ぶ手伝いをして、そのまま部屋に居座る。

昨日の六人がいつの間にか集まり、今夜はカレーにしようということに。
スーパーの場所の確認もかねて、食材の買い出し。
指定のゴミ袋を選んだり、なかなかの青春っぷり。

部屋に戻ると皆荷物が届いたり家族が来たりと忙しそうだったので、
暇人たちで大学の下見へ。
帰りに近所のお惣菜屋さんで弁当を購入。
自分でトレイに好きな惣菜を盛るタイプで、なかなか良い。

部屋で弁当を食べる。
割と暇なので、ジャンケンで負けた奴がトランプを買いに行くことに。
トランプを待っている間、タウンワークでバイト探し。
なかなか良さげな案件はあるが、やはり最低賃金が低く、全体的に安時給。
入浴無料、賄い付の温泉バイトを見つけて、争奪戦。
結果、授業が始まらないとシフトが組めないということで、保留。

トランプが到着。大富豪とババ抜きで一通り盛り上がる。
カレーの準備を前に、UNOと米びつの買い出しに再度ジャンケン。
今回は二人。見事負けて、買い出しへ。
どこにもUNOが見つからず、大鍋と米びつを抱えたまま長崎散策。
大学生協まで行くも、閉まっていた。
途中で皿もスプーンもないことに気づき、再度ホームセンターへ。
当たり前の物が足りない状況が案外面白い。

四人部屋の収容量を大幅に超えた部屋に戻り、
九人分のカレーを眺める。
いつの間にか、昨日より三人増えてる。

美味しいカレーを食べた後は、トランプ。
しかし、九人のババ抜きが盛り上がるわけもなく、
人狼をすることに。
これがめちゃくちゃ盛り上がった。
3時間くらいしてた。
多分、恒例になりそうな予感。

しかし、なんだ。
食材買って、カレー食って、トランプして、人狼って、
これは、もう、合宿です。
この生活が1年続く気配はない。
2泊3日感がすごい。
全員出会って二日目とは思えないほど馴染んでいるので、
このまま1年楽しくやっていけそうな気がしている。

実感はまだ

朝、伊丹空港に向かう。
実感はまだない。

10:30離陸と同時に爆睡。
起きると、窓が半分閉じられてた、
CAの優しさを感じながらも、実感はまだない。

11:50長崎空港に着陸。
初めてなのに、どこか懐かしい外観と気候。
空港のテレビで甲子園が放送されていると、
夏のように錯覚して、実感はまだない。

バスで長崎市街地へ。
Google Mapと逆方向に進んで少し不安。
現在地から目が離せない。
スマホは熱を持ち、爆速でバッテリーが消費される。
初めてフィンランドに行った時、
ヘルシンキからヴァルパイスヤルヴィへの車中と同じ状況。
実感はまだない。

長崎駅に着く。
乗り換えの電車を確認すると、1時間に一本しかない。
1時間後のその電車に乗り遅れないように注意しながら、
ロッテリアで昼食を取る。
ポテトが塩辛すぎて、実感はまだない。

電車に乗る。二駅。
満開の桜の下、電車を降りる。
重いリュックを背負って、
電池の表示が赤くなったスマホを片手に、歩く。
見上げるほどの坂をいくつか越え、
路地とも呼べないほど狭い道をいくつか越え、
電池残量3%でなんとか寮に辿り着いても、実感はまだない。

入寮説明会。
割と父兄も来ている。
おばあさんもいた。
本格的な引越しをしている人達を横目に、
前日に送ったスーツケースを待つ間も、実感はまだない。

スーツケースが届き部屋に入ると、
四人部屋のはずなのに、先客は一人しかいない。
とりあえず、部屋を作ったあと、自己紹介。
性格の良さげな青年であるが、やはり18歳なのであどけない。
一緒にコンビニへ夕食を買いに行く。
今日が誕生日らしいので、小さなケーキも買った。
部屋で二人、実感はまだない。

外に、同じく男2人組がいた。
声をかけると、彼らも四人部屋に二人しかいないらしい。
性格の良い二人であった。
彼らの部屋で四人、実感はまだない。

さらに同じ状況の2人組に出会う。
集会があるらしく、集会場へ。
寮全体の半分程が集まり、出身地と名前だけの自己紹介タイム。
珍しい地名があると騒めく。
それが終わると、あっさり解散し、先ほどのメンバーで集まる。
彼らの部屋で六人、実感はまだない。

なかなか良いメンバーである。
私以外は全員出身が九州だが、場所は全員バラバラ。
6歳の年の差を感じさせず、2時間以上語らう。
明日何人かと一緒に大学の下見に行くことを約束して、
部屋に戻り、パジャマに着替える。
日記を書いて、今に至る。
今日からここに住むのだ。
そうなるのだろうと頭では理解しながらも、
どこか疑っている自分もいる。
心が追いついていないのだろうか、
どれだけ鈍いのか。

まぁ、友達もできた。
新しい人生は順調に進み出している。
実感などなくとも、なんとかやっていけそうだ。

その瞬間に雨は降らない

発表会の控え室。怒られに行く廊下。
好きな子との待ち合わせ場所。
緊張するシチュエーションは多くあるけど、
自宅の部屋でこんなに緊張することって、多分ない。

3月8日11:00 合格発表

1時間前からPCの前に張り付く。
小粒の雨が降る音を遮るように、
好きな音楽をかけ、メモ帳に落書きしながら、
更新ボタンを押す。
何も変わらない。
時計だけが、案外テンポよく動いている。

昼前なのに外は暗く、心臓が痛い。

5分前、雨が途切れた。
ペン回しをしていた指が震え、
ペンが机にぶつかり転がったが、
ギリギリのところで落ちなかったペンに、少し安心する。

1分前、更新ボタンを押すと、新着記事が出ている。
予定よりも1分早い更新に少し戸惑う。
クリックする。
注意事項と、心の準備もさせないような、
無愛想で無機質な数字の羅列が映し出される。
嫌いなものを無理やり見せつけられるような、
不快感を噛み締め、数字を追う。

そして、

自分の受験番号が飛び込んできた。

声が溢れる。
「え、あったえ、あったえ、あったえ、あった」
感動の瞬間に似合わない間の抜けた声は、
再び降り出した雨の音にかき消されるほど小さく、
幸い世界には気づかれてはいないだろう。

来月から、大学生である。

土曜日、帰路はそこに

人は時に岐路に立たされ、 

決断を余儀なくされるが、 

その時は不意に突然やって来る。

妹の騒音に目が覚めた。 

慌ただしく支度をする彼女を横目に台所へ行く。 

昨晩のスープが鍋に残っていたので、

それを温め直した。 

ついでにココアを作り、パンを焼いた。 

ただの気まぐれである。

自分の部屋が寒かったので、 

二階にそれらを運んだ。 

二階にある母の仕事場も寒かったが、

せっかく運んだことなので、 

仕方なくそこで食べた。 

ただの気まぐれである。

気まぐれに、
母と他愛のない会話をする。 

話題は将来の話になる。 

当然、獣医以外の選択肢についてである。

避けていた話題ではあるが、 

その話に乗ったのは、
気まぐれからであった。

いつものことながら、
話は英語を活かすというところになった。 

私が最も苦手とする話題であったが、

私は癇癪を起こさなかった。

この5年で成長したものだ。 

それとも、ただ、疲れただけか。

そして話は驚くべきことに、
英語系の私立を受けることになった。
5年前の私からも、

1年前の私からも、

昨日の私からも、 

全く予期できないものである。

自宅の二階に岐路があった。


果たして、本当に、
気まぐれであったのだろうか。